量子論の「状態の重ね合わせ」ってどんな話?~わかりやすく解説してみたよ~
はじめに
量子論とは、簡単にいうと原子よりも小さなミクロ*1の世界を説明する理論です。ミクロの世界では私たちの常識が通用しない、嘘みたいで不思議なことが起こります…。
そして私たちの住んでいるこの世界も、実はとんでもなく不思議なことが起き続けているという事がわかってきました。
今回の記事は量子論を全く知らない人向けに、この世界の不思議で面白いところを抜き出して出来るだけ簡単に説明していきます。なので難しい数式みたいなものは使わずに、解説していきます。
また、どうしてこんな話になったのかみたいな量子論の歴史みたいな話はまた別の記事で書きます。
量子論のはじまり
量子論とは、「光は波なのか粒なのか」という昔の人の疑問から話が発展していきます。
いろいろな実験やら理論やらを突き詰めていくと、光は粒の性質と、波の性質のどちらも併せ持つことがわかりました。さらに、光に限らず原子よりも小さいようなミクロのモノは何でも同じように粒と波の性質を持つことがわかりました。これらを合わせて「量子」と呼びます。
このミクロな物質たち「量子」の性質を調べようと、様々な科学者が実験をしていきました。(どんな実験があったのかはまた別の機会に書きます)
いろんな研究の結果、ミクロの世界ではあらゆる物質は「状態の重ね合わせ」という不思議な現象が起こることがわかりました。
さて、状態の重ね合わせとは何でしょう…?
具体的な例で考えてみましょう。
状態の重ね合わせとは…?
ここに、ある箱があったとします。この箱には仕切りを入れることで、中身を分けることが出来ます。
マクロな場合
この箱の中に目に見えるような、マクロ*2なサイズのモノを入れます。なんでもいいのですが、今回はリンゴを入れましょう。
そして仕切りをします。
このときリンゴはどのような状態にあるでしょうか。
仕切りをした時につぶしたりしてなければ、「リンゴはどちらか一方にある」でしょう。
当たり前ですね。
これはフタを開けてみても同じです。
リンゴはどちらか一方にあります。
ここまでは、至極当たり前の話です。
ミクロな場合
では同じように、この箱にミクロな物質を入れます。今回は電子1個をこの箱の中に入れたとします。
そして同じように、仕切りをします。
このとき、電子はどのような状態にあるでしょうか。
普通は「どちらか一方にある」と思うでしょう。
でも実はこのとき電子は50%ずつの確率で「どちらにもある」のです。*3
「どちらか一方にあるけど、フタを空けるまではどちらにあるかわからない」というわけではないのです。訳がわからないかも知れませんが、本当に右にも左にもあるのです。
では、このフタを空けてみたらどうなるでしょうか。
電子は何事もなかったかのように"どちらか一方"に入っているのです。正確に言うと、フタを開けて観測をした瞬間に、電子はどちらかにいる状態に収束するのです。
何となく嘘くさいような、騙されたような感じがするかもしれませんが、このようにミクロの世界では私たちの常識が通用しないような不思議なことが起こっているのです。
しかし、上記で軽く触れた光は粒か波かを調べる実験で、このような性質は既に明らかにされています。
とはいえフタをしている時はどちらにもあって、フタを開けたら片方にしかないなんて話、普通に考えて信じ難いですね…。
じゃあ、中で観測してみればいいんじゃない?
では箱の中にカメラを仕掛けて見てみればいいじゃないか、と考える人もいると思います。
しかしこの観測するという行為自体は、光を当ててその反射をキャッチする事なのです。
電子みたいにミクロなモノを観測しようと光を当てた時点で、観測するモノに影響を与えてしまうので、ミクロの世界での観測は原理的に出来ません。
今回の例で言えば、箱の中の片方にカメラを置いたりして観測して確かめようとすると、箱の中のどちらかにある状態に収束してしまうのです。
屁理屈っぽくて、ちょっと嘘くさいような気もするかもしれませんが、ミクロな世界ではこのようなことが当たり前に起こっているのです。
それでも私たちの体を含めて、目に見えるモノは全てこのようなミクロな物質が集まってできています。これって何だかとても不思議なことだと思いませんか?
そんなアホな話あるか!派の意見
このようにミクロな世界では、物質が様々な状態で重なっている…。
こんなこと言われても、素直に信じるのは難しいと思います。
他の科学者も同じように、こんなことあるわけがないだろ!と考える人もいて、大変大きな議論になりました。
シュレーディンガーという科学者は、上記の状態の重ね合わせの考えを、ある思考実験によって否定しようとしました。この思考実験は「シュレーディンガーの猫」と呼ばれていて、とても有名な話です。
まず当たり前の話ですが、動物の生死が共存している状態なんてありえません。動物には生きているか死んでいるかの、どちらかしかありません。
それでは、ミクロな物質の振る舞いによって動物の生死に影響するような装置を作ったとしたらどうなるでしょう?
用意する道具は以下の通りです。(とはいえ思考実験なので本当にやるわけでは無いです)
- 放射性物質1粒…1時間経って核分裂する確率は50% *4
- ガイガーカウンター…↑が核分裂したかどうか調べる装置
- 毒ガス発生装置…↑の装置に繋がっていて、核分裂したら毒ガス噴射
- ネコ…↑の毒ガス吸ったら死んじゃうお
- 箱…全部入るサイズのやつ
ではこの箱に他の4つを入れて、フタをします。
箱の中にはガイガーカウンターという放射性物質が核分裂したかどうかを判断する装置があり、それを毒ガス発生装置につなぐことで、核分裂していると毒ガスが発生するような仕掛けにします。
つまり放射性物質が核分裂をしていると猫は死んでしまうことになります。
さて、1時間経ったらこの箱のフタの中ではどうなっているでしょう?
放射性物質はミクロな物質なので、先程の電子の例と同じように核分裂している状態としていない状態が重なり合っています。
ただここで問題なのが、放射性物質は核分裂している状態としていない状態が重なりあっているという事はつまり、猫が生きている状態と死んでいる状態が重なり合っていることを認めてしまうことになってしまいます。((生死が共存している状態とは、猫が瀕死の状態だというわけでは無いです))
そして例によって、人間がこのフタを開けて中の様子の観測をすると、その放射性物質の状態はどちらかに収束します。
つまり猫は、生きているか死んでいるかのどちらかに収束します。
ミクロの物質の状態が重なりあっていることを認めてしまうと、動物の生死のようなマクロな世界に話を広げたときに、途端にわけのわからない事を認めてしまうことになります。
「死んでいて生きているなんて…そんなアホな話あるか!」という事で、状態の重ね合わせを否定しようとしました。
ただ、そんなこの話を矛盾なく説明するアイデアは…実はあるのです。
ただ、もしその考えが正しかったとすると、実は私たちの住んでいるこの世界は途方もなく不思議なことになってしまいます…。
「シュレディンガーの猫」を上手く説明するアイデアとは…?
箱の中には生きている猫と、死んでいる猫が同時に共存していると考えるから、わけがわからなくなるのです。
「箱の中に入れた時点で、この世界は猫が生きている世界と、猫が死んでいる世界に分岐してしまった」と考えるのです。*5
この考え方を「多世界解釈」と言います。
確かにこの考え方なら、無理に猫が生と死の共存をしているという話をしなくてもよくなりそうです。
しかし、この話を認めてしまうと状態の重ね合わせの数だけ世界が分岐して、無限にパラレルワールドが存在してしまうことになります。
状態の重ね合わせなんて普通の生活レベルで考えたら中々起こることの様には感じないように思うかもしれませんが、ミクロの世界では今も当たり前の様に起き続けています。
なんとも信じがたいですが、こんなSFみたいな話が現実に起きているのかも知れないのです。
しかし分岐した世界同士は、互いに影響しあうことはありません。なので本当にこの世界が分裂したのかどうか、実験などで確かめる方法は原理的にないのです。
とはいえ現実に起きているかもしれないこの話を聞いて、何だか私たちの住んでいるこの世界の見方が変わってしまう感じがしませんか…?
量子論って何に役立つのさ
不思議なミクロの世界と、それが導き出す不思議な世界像を紹介してきました。
でも、こんな話が何の役に立つの?と思う方もいるかもしれません。
実は量子論は、現代の生活を支える基盤となっていると言っても過言ではないくらいに私たちの生活の役に立っています。
それは、まさに今あなたが手にしているスマホやPC、その中に入っている半導体という重要な部品は、量子論を基礎とした技術が生み出したのです。(この話の詳しい説明はさらに長-い話になってしまうので止めておきます)
逆に言うと量子論がなければ、スマホもPCもなかったわけです。
私たちはそれだけ大きな恩恵を受けているのです…!!!
おわりに
なるべく難しい説明を省いてつらつら書いてきましたが、中々長めの記事になってしまいました…
この記事を読んで、この不思議なミクロの世界に少しでも興味を持ってくれたら嬉しく思います。
ここまで読んでくれて、ありがとうございました!!